住まいの歴史はお国の歴史。海外のリノベーション事例を見てみよう!【アメリカ編】

 日本では、近年「リノベーション」が注目を集めている。この「リノベーション」という言葉の意味は古くなった建物を建て替えることなく、既存の文脈を活かしつつ、再生させることである。

 

 一方で、海外においては「リノベーション」に対応する言葉は renovation の他に restauro や restore など多様に存在する。その意味は重なるところがありつつも、異なる概念を形成し、また修復、再生、増改築の手法はそれぞれ国によって異なっている。そして言葉の意味や手法が異なる要因、 renovation が行われる要因はそれぞれの国の歴史、法律、経済事情、価値観など思想的背景が大きく関わっていると考えられる。

 

 アメリカ人の歴史観は、まずその歴史が浅いという特殊性から生まれてきた。その特殊性ゆえ19世紀後半において、 「米国民」 というアイデンティティ確立のために「保存」という手段が用いられた。 しかし、第二次世界大戦後の経済的成長を第一に掲げた国策により、大規模都市開発が数多く行われ、歴史的な環境は失われていく。このような急激な変化に対して国民の保存運動が盛んになり、1949年にはナショナルトラストが設立された。市民の保存運動が盛んになる中、1963年のペン・ステーション駅の取り壊しは、ニューヨーク市民に大きな衝撃を与え、その後の保存運動に大きく影響した 。
 

 また、1963 年というのは「アメリカが美しかった最後の年」、「アメリカ人がアメリカ人としての自信があった最後の年」と言われている。ケネディ大統領とキング牧師の暗殺、ベトナム戦争の泥沼化などによって、アメリカ人の自信が失われた年代でもあった。このような「時代の空気」のなかでアメリカ人はふたたびアイデンティティの確立を求め、 歴史的環境の保存をその手段として用いるようになった。 また1960年までの経済発展に対するカウンターカルチャーとして自然環境保全とともに都市や街並を保存しようとする姿勢が見られる。

 

 そしてもうひとつ、アメリカ人のアイデンティティ形成に重要な役割を果たした「フロンティア精神」が、 保存運動に影響を及ぼしていると考えることもできる。 モータリゼーションによって荒廃してしまった都心にデヴェロッパーや建築家がフロンティアを見いだし、 そこで新たに建て替えるのではなく既存の建物を修復し、再利用していったのである。

 

 アメリカの歴史的建造物の保存・再利用、そしてrenovationを推進しようと働いたものは、まさに純粋な市場原理のなかにあった。

それは、1976年の税制改革法である。税制優遇措置の充実によって、1980年代は古くなって痛んだ建物を買い取ってそれを修復し、転売して一稼ぎしようという投資家が多くなってきた。この時期の税制の優遇措置は歴史的環境保存に対して顕著な効果を発揮し、歴史的環境の保存をビジネスとして成り立たせた。ただ、その反動で1990年代は、その税制優遇制度よって将来的に使い物にならないrenovationが増えてしまったことを反省している。

参照:「アメリカ合衆国における Renovation の思想的背景について -1970~2000年の“ Architectural Record ”を通して-」建築デザイン研究室 打集宣善